『お前の推しは俺の推し』 紺のんこ

5.9/10

 2021年現在、「推し」という言葉は日本におけるファンダム文化を最もクリアに表しているといえる。「推しが尊い」「○〇しか勝たん」「#〇〇生誕祭」という言葉はとりわけSNS上でよく登場する。その影響は特に若者の間で大きく、アニメ化もした『推しが武道館いってくれたら死ぬ』、ジャンプ+にも掲載されている『推しの子』など、漫画の題材としても度々「推し」の概念が出現する。本作も主人公である雷門帝という男性アイドルは人気のアイドルグループに所属しており、大勢のファンの推しなのである。しかしタイトルの通り、彼はふとしたことからエキストラの高校生カップルの両者に対して尊さを感じてしまい、気づいたら推していた。この「推す」の相互性は非常に新鮮で、人気アイドルであるはずの彼が一般人の二人をファン的目線でとらえ悶えるというコメディ的展開がこの漫画の幹である。

 しかし島で撮影を行った際に、彼らと出会い、その直後に彼らを見るために島に仕事を休み転校するという展開は少し突飛すぎではないだろうか。島に住んでいることが二人が離れ離れになってしまうという動機付けではあるものの、不可欠な要素ではないだろう。また、作者はりぼん出身(集英社)ということも理由の一つになるかわからないが、作画が少女漫画的、もっというと、背景や人物の動きを重視しない書き方なため、どうしてもアイドル達のパフォーマンスにダイナミックさが欠けてしまっていることももったいない。この少女漫画のユニークさは序盤の主人公のキャラ付けの面でもいえるだろう。

 このようないわゆる流行り文化を取り入れた漫画はここ最近特に、ジャンプ+などのネット媒体の漫画で増えてきており、明らかに本誌との差別化を狙っているのだろう。

 

https://shonenjumpplus.com/episode/3269754496348385344

#お前の推しは俺の推し